クローバー歯科・矯正歯科 あべの天王寺院 歯科医師 永井 伸人
食べ物を歯できちんと噛むことの効果、および必要性についてご紹介します。
噛むとどんな効果がある?
きちんと噛むと身体に下記のような効果や働きがあります。
1. 胃腸の負担を減らす
前歯で食べ物を小さくちぎり、奥歯ですりつぶす噛み方を毎日行っていれば、食べ物は細かくなります。細かくなった食べ物は唾液と混ざり、消化がしやすくなるため、胃や腸の負担が減ります。
2. 脳を刺激する
歯を支えている骨(歯槽骨)と歯根の間にある歯根膜の神経は、脳の中枢神経につながります。噛むことが脳の刺激になり、脳内の血流が増え、前頭前野の機能が活発化します。
3. 食べ過ぎを防ぐ
時間をかけてしっかりと噛むと、脳内の満腹中枢が刺激され、食べ過ぎを防げます。理想としては一口入れるたびに、回数としては30回咬む習慣をつけることが理想です。食べ過ぎを防げれば、体形維持ができ、肥満防止にもなります。
4. お口周りの筋肉を鍛える
お口の周りには様々な筋肉があります。骨格につながる咬筋を使用すると鍛えられ、口輪筋、舌筋、表情筋など顔の表情にも影響を及ぼします。永久歯に生え変わる前の子供は、顎の成長にも直結します。不正咬合(受け口)は、上あごの発達ができず起こることも多いので、咀嚼を行いましょう。
5. 食材本来の味を楽しめる
しっかり噛むと食べ物の味や噛み心地や歯ごたえが変化し、味覚だけではなく、酵素や栄養素がきちんと摂取することができます。
現代人は噛む回数が減少している?
一般的に、現代人は時間に追われているイメージがあります。昭和の初期は一食当たりの咀嚼回数が1400回以上に比べ、現代ではおよそ600回ほどに減少しています。
食べる際の咀嚼回数が多ければ、咀嚼の時間も長くなるのが通常です。昭和初期には一食当たり20分以上じっくり時間をかけるのに対して、現代では半分の約10分ほどと言われ、忙しい現代を表しています。
現代人が噛む回数が減少している理由
現代人が噛む回数が減少しているのは、主に以下のような理由によります。
1. 加工食品と軟らかい食品による食事の増加
現代の食事は加工食品や軟らかい食品の摂取が増えています。これらの食品は咀嚼する必要が少ない傾向があり、噛む回数の減少に繋がります。一方で、従来の食事は食材の硬さや大きさによって、より多くの噛む行為を必要とする食品を多く含んでいました。
2. 高カロリー・低栄養食品の増加
現代の食事はしばしば高カロリーで低栄養の食品を含むことがあります。これらの食品は噛む回数が少ないことが多く、多くの量を食べてしまう傾向があり、これが肥満や代謝疾患の増加と関連しているとも言われています。
3. ファーストフード文化の普及
一般家庭においてもファーストフードやテイクアウトの食事が増えており、これらの食事は通常、短時間で手軽に摂取できるもので、噛む回数が少ないことが多いです。
4. 噛む必要のない液体食品
手軽に食べられる加工食品の中には液体食品やスムージーが含まれ、これらは噛む必要がないため、噛む回数が減少する可能性があります。
5. スマートフォンやコンピューター、テレビなどを見ながら食べる
スマートフォンやコンピューター、テレビなどを見ながら食事をする人が増えているため、食事時間が短縮されることがあり、噛む回数が減少する可能性があります。
現代の生活では、これらの要因が組み合わさって噛む回数が減少していると考えられます。噛む回数の減少は、お口の健康や消化に影響を及ぼす可能性があります。
歯でしっかり噛めなければどうなる?
噛めない状態になれば、日常の食事における楽しみを失います。食生活の豊かさだけではなく、咬む刺激が顎の骨や脳に伝達しないため、多くの歯が抜けやすい状態に陥ります。
残念ながら歯が抜けると、歯科医院で義歯(インプラント・入れ歯・ブリッジ)の装着をしなければなりません。洗浄を怠った義歯の装着をすると、細菌感染が起き、むし歯や歯周病のリスクがあります。そうなれば、ご自身の残存歯にダメージがあります。歯磨きが十分に行えないケースですと、歯肉の炎症や、抜歯という問題を引き起こす可能性があります。
噛むことの身体への効果に関するQ&A
噛めない状態になると、日常の食事の楽しみを失うだけでなく、咬む刺激が顎の骨や脳に伝達されないため、多くの歯が抜けやすい状態になります。歯が抜けると、歯科医院で義歯(インプラント・入れ歯・ブリッジ)を装着する必要があります。義歯の洗浄を怠ると、細菌感染が起き、むし歯や歯周病のリスクが生じます。また、歯磨きが不十分な場合には、歯肉の炎症や抜歯の問題が起こる可能性もあります。
噛むことによって食べ物が細かくなり、唾液と混ざることで消化がしやすくなります。そのため、前歯で食べ物を小さくちぎり、奥歯でしっかりと噛む噛み方を毎日行うことで、胃や腸の負担を減らすことができます。
歯を支える骨(歯槽骨)と歯根の間にある歯根膜の神経は、脳の中枢神経につながっています。噛むことによってこの歯根膜の神経が刺激され、脳内の血流が増え、前頭前野の機能が活発化します。つまり、噛むことは脳を刺激し、血流や脳の機能を活性化させる効果があります。
まとめ
食事の際になるべくゆっくり時間をかけて噛むと、唾液が多く分泌され、お口の中のリスクが減ります。しっかり噛んで正しい歯みがきを続けていると、結果的に歯の健康にもなります。噛み合わせによりうまく噛めないなどのお悩みがある場合は、クリニックへ通院し、歯科医師やスタッフに相談をしましょう。
よく噛むことによる身体への影響に関して、以下の2つの研究が参考になります。
1. Kubo et al. (2015) によると、噛む行動はストレスへの対処方法として効果的であり、特に視床下部-下垂体-副腎皮質系と自律神経系の活動に変化をもたらすとされています。ストレスの状態で噛むことは、プラズマコルチコステロンやカテコラミンの増加を抑制し、ストレス関連物質(神経栄養因子や一酸化窒素など)の表現を減少させることが示されています。動物実験では、ストレスを受けた際に木の棒を噛むことでストレス誘発性の胃潰瘍形成を軽減し、空間認知機能の障害や不安様行動、骨量の減少を抑制することが報告されています。人間においても、ストレスを受けた際にガムを噛むことで、プラズマや唾液中のコルチゾールレベルを下げ、精神的ストレスを減少させる効果が一部の研究で示されていますが、他の研究ではそのような効果が認められていないことも指摘されています。【Kubo et al., 2015】
2. Katayama et al. (2020) の研究では、よく噛んでゆっくり食べることが健康維持に良い習慣であるとされています。食後の血糖値のゆるやかな上昇は、過食、肥満、糖尿病を防ぐ効果があると指摘されています。この研究では、34名の高校生、55名の大学生、23名の中年者を対象に、噛むことに関する主観的自己申告式のアンケート調査と、噛む能力のテスト(ロッテ製の噛む能力チューインガムを使用)を行いました。その結果、参加者の多くはキシリトールや8020キャンペーン(80歳で20本の歯を維持すること)を知っていましたが、食事をよく噛んでいると回答した人もいれば、食べ物を一口につき30回噛むことに自信を持っている人は少数でした。噛む能力チューインガムを60回噛むテストでは、検査員による判断が行われました。【Katayama et al., 2020】
これらの研究から、よく噛むことはストレス対処に効果的であり、また血糖値の安定にも寄与する可能性があることが示されています。