
部分矯正ができない例とはどのような歯並びでしょうか。部分矯正とは具体的に何本治療できるのか、部分矯正ができない例の場合、どのような代替え治療法があるのかについて詳しくご紹介いたします。
部分矯正とは
部分矯正とは、気になる一部の歯だけを動かして歯並びを整える治療法です。
- 前歯の軽度なねじれ・傾きが気になる
- すきっ歯(空隙歯列)が気になる
- 以前の矯正の後戻りが起きてしまった
- 1本だけ飛び出ている歯がある
一般的にはこのような前歯の軽度なガタつきや、前歯のすき間などに対して行われます。部分的な審美改善を目的とし、噛み合わせに大きな影響がない範囲での矯正に適しています。治療期間が短く、費用も比較的抑えられるのが特徴です。
部分矯正の主な特徴
- 治療対象は前歯6本(犬歯から犬歯まで)でスペース不足が3mm以下であること
- 治療期間は約3か月〜1年程度
- ワイヤーブラケット矯正やマウスピース矯正、いずれかで可能で、全体矯正に比べて手軽に始めやすい
ただし、この部分矯正は、誰でもできるわけではないというのが大切なポイントです。
部分矯正ができない例とは
では、実際に部分矯正はできないと言われる例についてご紹介します。
噛み合わせ全体に問題があるケース
不正咬合という歯並びで、且つその程度が中度や重度の場合は、歯並び以外にも問題があります。
受け口(下顎前突・反対咬合)
下の顎が、上の顎より前に発達していることから、噛み合わせがずれてしまう状態です。受け口の原因が骨格によるものか、歯によるものかに寄りますが、骨格が原因でそれが重度であれば、矯正治療ではなく外科矯正をおすすめされることがあります。歯が原因であっても抜歯の処置が必要となったり、片方の顎全体を矯正することがあると、部分矯正ではなく全体矯正となります。
重度の叢生(歯並びのガタガタ)
前歯の重なりが多く、歯並びがデコボコと前後している場合は、歯の移動スペースを大幅にスペースを作らないと動かせません。歯を移動させるスペースを作るためには、象牙質に当たらない部分のエナメル質を削るIPRという処置が必要となります。約0.25mmほどの削りで動かせるならば問題ありませんが、重度の叢生であると、抜歯処置が必要な程歯の重なりがあります。
咬み合わせが深い(過蓋咬合)
上下の奥歯を咬み合わせた時、上の前歯が下の前歯に過剰に覆いかぶさり、下の前歯が見えないケースを指します。オーバーバイト呼ばれ、この場合は噛み合わせに関係しているため、部分矯正では行えません。
口が閉じられない(開咬)
上下の奥歯を噛み合わせていると前歯がどうしても開いてしまう状態を指します。オープンバイトとも呼び、先天的な顎のバランスや、顎の位置が原因という可能性もあります。このケースでは噛み合わせを改善しなければならないため、部分矯正は行えません。
上下の噛み合わせが一部変わっている(交叉咬合)
上下の噛み合わせが左右で反対になり、下顎の歯の一部が上顎よりも唇側に出ている状態です。クロスバイトと呼ばれ、噛み合わせにずれが生じているため、どうしても部分矯正には向きません。
出っ歯(上顎前突)
前歯1本のみ突出しているのではなく、前歯全体が前方へ傾斜を付けて突出しているケースを指します。前歯の角度が歯に原因があるのではなく、骨格に原因がある場合は、口も閉じづらくなります。
奥歯のズレがある場合
奥歯の噛み合わせが悪い方は、部分矯正を行うことができません。過去の虫歯治療や抜歯を行ったことにより奥歯が倒れている場合、無理に部分矯正を行うと、噛み合わせが更に悪くなります。前歯だけを整えても土台となる奥歯のバランスが悪ければ意味がない場合が多いです。部分矯正では抜歯を前提としたスペース確保が難しいため、全体矯正の方が効果的です。
顎の骨格そのものに問題がある場合
骨格性の出っ歯や受け口など、外科手術(セットバックなど)を併用しないと改善できない方は部分矯正を行っても効果がありません。骨の位置が関係していると、歯だけ動かしても見た目も噛み合わせも変わらないからです。
虫歯や歯周病が進行している場合
細菌感染している口腔環境で、歯を動かす矯正治療を行うと、細菌が活性化してしまいます。それにより、歯の内部へ進行が早くなったり、歯肉や骨に悪影響を及ぼすこともあります。無理やり動かすと、移動後に歯の寿命を縮めてしまうこともありますので、口腔内の健康状態を整えなければなりません。
部分矯正では歯の移動範囲が限定されるため、上下の歯のバランスや顎の位置に問題があると対応できません。
部分矯正が向かない人が無理にやる失敗の例とは?
安さや短期間というメリットに惹かれて、本当は部分矯正に向かないのに無理に始めてしまったという失敗例も少なくありません。
失敗パターン
では、どのようなことで部分矯正を無理に選び、失敗してしまったのでしょうか。
見た目のみを整えた結果、噛み合わせがズレて食べづらくなった
歯並びの綺麗さのみを重視してしまうと、見た目は綺麗に見えても噛み合わせがずれるということはあります。審美面が良くなっても、咀嚼という機能面にとっては劣ることになると、特定の歯に負担がかかります。特定の歯に負担がかかると、その部分の歯の健康寿命が短くなり、周囲にも広がってしまいます。
無理な移動により、歯根が短くなり、歯がグラグラしてきた
矯正力をかけ過ぎてしまうと、歯根吸収が起きてしまいます。適度な矯正力を維持することが大切です。そのためには、決められた通院間隔を守りましょう。
前歯のみ真っ直ぐになったが、奥歯とのバランスが崩れた
前歯のみ綺麗なラインになっても、奥歯とのバランスが悪くなると、体に影響が出ます。顎関節症になって開口障害(大きく口が開かない状態)になったり、偏頭痛や、肩こりも起こることがあります。
短期間で終わらせようとして後から全体矯正が必要になった
治療期間を重視しすぎると逆に良くないケースがあります。歯を抜かなければ治らないケースだったのに、IPRをして歯を削ってしまい、それにより歯質が弱まり感染してしまいます。軽度の不正咬合であり、歯科医師にも部分矯正で治療出来ると言われた場合のみ行うようにしましょう。
安い費用のみで部分矯正を選んだ
矯正治療を行う為には、信頼できる歯科医院を選び、事前に精密検査を受けることが極めて重要です。とりあえず前歯のみを早く治したいという気持ちはとても分かりますが、その歯科医院がきちんと多くの症例があるのかという点に注目しましょう。費用が安いという点のみで選び、矯正の知識を専門的に学んでいないドクターに治療をされると、歯列全体のバランスを崩すリスクになり得ます。
部分矯正がダメでもある代替え治療法
部分矯正が無理だったからといって、何もできないわけではありません。改善方法はありますし、むしろ、長期的に見れば患者さんに合った治療を受ける方が、安心で安全に行えて満足度も高いのです。このような選択肢を検討しましょう。
全体矯正
- マルチブラケットを歯の表面に付けて、中にワイヤーを通して矯正を行うワイヤー矯正
- 半透明のマウスピースを装着し、期間ごとに新しいマウスピースへ交換していくことにより行うマウスピース矯正
片顎か両顎かにもよりますが、歯並びのみではなく噛み合わせの状態も根本的に改善できます。ただし、全体矯正は部分矯正より治療費は高く、治療期間は長いデメリットはあります。見た目が良く、発音や歯磨きがしやすく虫歯予防になり、精神面や健康面へプラスの影響を及ぼします。
セラミック矯正(短期間で見た目だけ整えたい人向け)
天然歯を削り、審美性や機能性が高いセラミッククラウンやラミネートベニアを被せるという治療法です。あくまでご自身の歯を削るため、噛み合わせが悪いと診断された方には不向きです。歯列矯正より短く通院して治療を行いたいという審美目的の方に向いています。
インプラントやブリッジなどの補綴治療
歯の欠損やスペースが原因で起きている場合は、矯正治療ではなく、補綴治療でで噛み合わせを整える方法もあります。
外科手術と術後矯正を組み合わせる治療法です。顎の骨格が原因で歯を治療しても治らない重度の方の場合は、顎の骨のセットバック手術を行った後に、術後矯正で歯科治療を行うとより審美性が増します。当グループではカトレア院がセットバック手術を行っております。
まとめ
部分矯正ができないと診断される主な理由は、噛み合わせのズレ、骨格の問題、歯の重なりが重度であったり、口腔内の健康状態の悪さなどが挙げられます。見た目のみでなく噛む、話す機能まで考えた治療を受けることが患者さんの自身に合っているかもしれません。本当に自分に合った治療法を信頼できる歯科で見つけることが、後悔しない矯正治療への第一歩です。まずは専門的な歯科医師にしっかり相談してみましょう。