歯ぎしりの癖がある場合、インビザラインによるマウスピース矯正はあまり推奨されませんが、歯ぎしりの程度によっては可能です。歯ぎしりのある方がインビザラインでの矯正治療を受ける場合の注意点をご説明します。
歯ぎしりの癖があってもインビザラインで矯正治療を行えますか?
歯ぎしりの癖があっても、インビザラインで矯正治療を行うことは可能です。しかし、以下の点に注意する必要があります。
1. 歯ぎしりによるアライナーのダメージ
歯ぎしりの癖のある人は、眠っている間に無意識に歯に強い力をかけてしまいます。それによってインビザラインのアライナーが薄くなり、変形や破損を起こしたり穴があく場合があります。
歯ぎしりの程度にもよりますが、激しい歯ぎしりをする場合はアライナーの破損が大きく、マウスピースでの矯正治療を続けられない場合もあります。その場合はワイヤー矯正をお勧めします。
2. 治療計画通りに歯が動かない
歯ぎしりの癖があると歯が揺すられる影響で、治療計画通りに歯が動かない場合があります。歯ぎしりの影響でアライナーが歯にきちんとはまらなくなるとアライナーの作り直しが必要になります。
そのため、事前に余裕のある治療計画をたて、治療が始まってからは歯がきちんと計画通りに動いているかをこまめにチェックし、必要に応じてアライナーを再製作するなど、治療計画を調整しなければなりません。
3. 歯ぎしり対策
歯ぎしりは矯正治療に良い影響を与えないため、インビザラインの治療と同時にリラクゼーション療法などでストレスを緩和するなど、歯ぎしりに対する対策も行うことが推奨されます。
4. 矯正治療後に歯列が後戻りしやすい
矯正治療後にはリテーナーと呼ばれるマウスピースで歯並びを固定させますが、矯正治療後も歯ぎしりが続くと、後戻りと呼ばれる再び歯列が乱れる現象が起こる可能性があります。
歯ぎしりのある人は矯正治療後も歯列に対して影響を与えることを理解して矯正治療を行う必要があります。
歯ぎしりの癖がある人でもインビザラインでの矯正治療は可能ですが、上記のような注意点を考慮しながら治療を進める必要があります。担当の歯科医と相談しながら、適切な治療計画を立てましょう。
インビザラインで矯正中はナイトガードは使えないの?
歯ぎしりのある方の中には、夜間は歯を守るためにナイトガードと呼ばれるマウスピースをはめている方もおられます。インビザラインは1日22時間の装着が必要で、夜間もつける必要があるため、インビザラインでの治療中はナイトガードは使用出来ません。
顎関節症と矯正治療の関係について
歯ぎしりが治らないと、歯ぎしりによって顎関節に強い力がかかり続けますので、顎関節症のリスクが常にある状態となります。
口が開けづらい、口を開けると顎関節が傷むなどの症状がある場合は、矯正治療を行うことで顎関節症の症状が改善することがあります。
矯正治療によって噛み合わせが良くなると、顎関節の症状や歯ぎしり・食いしばりが軽減されるケースがあります。
歯ぎしりをすると歯にどんな影響があるの?
歯ぎしりは就寝中に無意識下で歯を強い力で擦り合わせます。そのため、歯にさまざまな影響を与えるリスクがあります。主な影響は以下のようなものです。
1. 歯が擦られて摩耗する
歯ぎしりによって歯が強い力で何度も擦り合わされると、歯の表面のエナメル質が摩耗して削れて薄くなったり、それによって歯の形が変わって噛み合わせが変化することがあります。
エナメル質が摩耗することで知覚過敏の症状がおこって頻繁に痛む場合は、痛み止めを使ったり歯の表面をコーティングする治療を行います。痛みが続く場合は神経を取る治療が必要になる場合もあります。
2. 歯が割れる、折れる
歯ぎしりによる強い力の影響で、歯にひび割れや折れるなどの破損のリスクが高まります。既に虫歯で歯が弱っていたり、神経を取った歯がある場合は、それらの歯が破損しやすくなります。
3. 詰め物・被せ物が外れやすくなる
歯ぎしりによって歯が揺すられると、詰め物や被せ物が割れたり取れたりしやすくなります。歯ぎしりがある場合は、セラミックよりも金属の詰め物・被せ物が推奨されます。
4. 歯茎の炎症が起こりやすくなる
歯ぎしりによって歯に強い力がかかると、歯を支える歯茎に炎症が起こることがあります。歯が揺すられることで歯周ポケットが深くなり、歯周病が進行してしまうリスクもあります。
5. 顎関節症が起こりやすくなる
歯ぎしりは顎関節にも強い力がかかり、顎関節症の発症リスクを高めます。顎を開ける際の痛みや顎が開きづらいなどの症状が出ている場合は顎関節症になっている可能性があります。
▼インビザラインでの矯正治療についてはこちらで詳しく解説しています。
まとめ
歯ぎしりのある人がインビザライン矯正を受ける際には、いくつかの注意点があります。主な注意点は、歯ぎしりによるアライナーのダメージのチェック、治療計画どおり歯が動いているかのチェック、歯ぎしり対策などです。
矯正治療で噛み合わせが良くなることで顎関節症の改善や歯ぎしり自体の改善も期待できる可能性がありますが、歯ぎしりを続けていると顎関節への負担はかかり続けますので、再び顎関節症の症状が出る場合もあります。
歯ぎしりによる歯の損傷を防ぐためのケアは矯正治療後も必要ですので、担当の歯科医師と連携しながら進めていきましょう。
歯ぎしりのある人がインビザライン矯正をする際の注意点について、具体的な研究結果を示す論文は見つかりませんでした。しかし、一般的に歯ぎしり(ブラキシズム)と歯科治療、特にプロステティック治療との関連について議論している研究があります。
1. ブラキシズムとプロステティック治療についてのクリティカルレビューでは、歯ぎしりがプロステティック治療、特に歯科インプラントにおける機械的および技術的合併症のリスク因子である可能性があり、インプラント生存率には影響しないものの、矯正治療中やそれに伴うプロステティック治療においては考慮すべき重要な要因であることが示されています【A. Johansson, R. Omar, & G. E. Carlsson, 2011】
2. ブラキシズム患者における歯科インプラント治療の合併症に関する後ろ向き比較研究では、ブラキシズムの患者群と非ブラキシズム患者群との比較から、ブラキシズムがインプラント失敗率とインプラント支持義歯の機械的および技術的合併症の発生率を有意に増加させる可能性があることが示唆されています【B. Chrcanovic, J. Kisch, T. Albrektsson, & A. Wennerberg, 2017】
これらの研究結果から、歯ぎしりのある人がインビザライン矯正を受ける場合、特に矯正治療中や治療後のプロステティック治療において、ブラキシズムが与える影響を考慮する必要があります。適切な診断と治療計画、および歯ぎしりの管理に関する専門家の助言を求めることが推奨されます。