クローバー歯科・矯正歯科 あべの天王寺院 歯科医師 永井 伸人
歯周病を引き起こす細菌が血液に混ざって全身を流れると炎症性物質が発生し、体内の様々な場所の組織を攻撃します。歯周病菌が原因で脳の組織や心臓や血液内の組織が攻撃を受け、重大疾患を引き起こすことがありますので、ご説明します。
歯周病が関連している病気とは?
歯周病菌が原因になっている病気は多くありますが、特に気をつけなければならない6つの病気についてご説明します。
- 糖尿病
- 心疾患
- 脳疾患・アルツハイマー型認知症
- 低体重児出産や早産
- 骨粗しょう症
- 誤嚥性肺炎
近年の研究によってこれらの病気が歯周病と関係しているということがわかってきました。
1.糖尿病
糖の代謝を調節し、血糖値を一定に保つホルモンを「インスリン」といいます。
インスリンの作用が不足すると高血糖の状態が続きます。これを糖尿病と言います。
歯周病菌が血流によって全身を巡る間に発生する炎症性物質が血液内の組織を攻撃すると、糖の代謝が妨げられてインスリンが作用しにくくなりますので高血糖の状態が続きます。
その結果、糖尿病が悪化してしまいます。
2.心疾患
心疾患とは、心不全・虚血性心疾患・不整脈・弁膜症などの様々な心臓病の総称で、これらの病気も歯周病と深い関係があります。
歯茎から血液中に入った歯周病菌が炎症性物質を発生させ、それが血管を通って心臓に到達し、心臓の内側の組織を攻撃して心不全を引き起こします。
血管内の炎症性物質によって、血液がドロドロになって血栓を作りやすくなり、心筋梗塞や狭心症などの悪化を招きます。
3.脳疾患・アルツハイマー型認知症
心筋症と同じで、血管内の細菌が発生させた炎症性物質が脳内の血管にたどり着いた場合、脳梗塞やアルツハイマー型認知症などが悪化します。
また、加齢などによって歯の状態が悪くなったり歯を失ったりした場合に、食事で噛めなくなると、噛む回数が減ったことで脳への刺激が減り、認知症の発症リスクを高めることに繋がります。
4.低体重児出産や早産
妊娠37週未満での出産で体重が2500g以下の場合、低体重児出産と呼ばれます。
妊娠中の女性が歯周病を患っている場合、出産に際して2つの危険があります。
- 低体重児出産の危険
- 早産の確率が高くなる(早産全体の50%以上が、歯周病感染によるものという研究結果も)
なぜこのような危険があるのかについてご説明します。
妊娠期間中、妊婦さんのお口の状態は以下のようになりがちです。
- ホルモンバランスが乱れる
- 口内にいる細菌のバランスが乱れる
- 歯周病菌が増殖しやすい環境になる
歯周病菌が歯茎の毛細血管から血管の中に入り、炎症性物質を発生させて、それが子宮の収縮運動を促すと、低体重児出産や早産に繋がります。
また、妊娠期間中は歯周病になりやすい口腔内環境になります。その理由は以下のようなものです。
- つわりのため歯磨きが十分に出来ない
- 歯磨きが出来ないので歯垢が溜まりやすい
- 歯垢の中で細菌が増殖して歯肉炎を起こしやすくなる
このように、妊婦さんの口腔内環境は歯周病になりやすく、出産後も、子供へ歯周病菌や虫歯菌を感染させてしまうリスクがあります。
5.骨粗しょう症
骨粗しょう症は閉経後のホルモンバランスの乱れによって、女性に多く発生する疾患ですが、生活習慣の改善によって、骨粗しょう症のリスクを下げることが出来ます。
生活習慣の改善のためには以下の3つに気をつけましょう。
- 過度の飲酒を避ける
- 喫煙を控える
- カルシウム不足を補う
骨粗しょう症と歯周病との関係は、まだ研究中の段階ですので、はっきりしたことはいえません。現在報告されているのは以下の3点です。
- 骨粗しょう症が顎の骨に影響を与える
- 骨粗しょう症の治療をしたら、歯周病が改善した
- 女性のカルシウム不足は歯周病のリスクを1.5倍あげる
6.誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎は、本来気管に入ってはいけない物が気管に入ってしまったことで引き起こされる肺炎のことです。老化の為に飲み込む機能が弱くなると、お口の中の細菌や食べかすなどが誤って気管に入りやすくなることで発生します。
歯周病菌を含んだ唾液が誤って肺に入ってしまうことによる細菌感染も原因となることがありますので、老化だけが原因とはいえません。
歯周病菌が原因といわれる病気に関するQ&A
歯周病菌が関与している病気は多岐にわたりますが、特に注目すべき疾患は以下の6つです。糖尿病、心疾患、脳疾患・アルツハイマー型認知症、低体重児出産や早産、骨粗しょう症、誤嚥性肺炎です。
糖尿病と歯周病は密接に関連しています。歯周病菌が血液中に侵入し、炎症性物質が放出されると、インスリンの効果が低下し、高血糖の状態が続く可能性があります。このため、歯周病が糖尿病の悪化を引き起こすことがあります。
心疾患と歯周病は密接に関連しています。歯周病菌が炎症性物質を血管を通って心臓に運び、心臓の内部組織を攻撃することで、心不全や心筋梗塞などの病態を引き起こす可能性があります。また、炎症性物質によって血液がドロドロになり、血栓の形成を促すため、心臓病の進行を悪化させることもあります。
まとめ
近年の研究によって、歯周病菌が様々な疾患に関係があることがわかってきました。それは歯茎から血管に入り込んだ歯周病菌が様々な臓器に運ばれることで炎症性物質が発生し、身体の組織を攻撃するからです。
歯周病は国民病ともいわれ、若い方にも珍しくない病気となりました。歯周病の予防のために、歯に問題が起こってなくても定期的に歯医者で定期検診(クリーニング)を受けるように心がけましょう。