クローバー歯科・矯正歯科 あべの天王寺院 歯科医師 永井 伸人
歯周病で起こる口臭とはどんな臭いか、歯周病によって口臭がどのように起こっているのかご説明します。
歯周病による口臭とはどんな臭い?
歯周病による口臭は、一般的には「不快な」「生臭い」「腐敗したような」臭いと表現されることが多いです。これは、歯周病を引き起こす細菌が口内で増殖して発生するガスによるものです。歯周病による口臭の特徴は以下のようなものです。
1. 硫化水素の臭い
歯周病を引き起こす細菌は、口腔内でタンパク質を分解する過程で硫化水素を生成します。硫化水素には腐卵臭とも表現される、腐った卵のような特徴的な強い刺激臭があり、目、皮膚、粘膜を刺激します。
2. メチルメルカプタンの臭い
歯周病関連の細菌はメチルメルカプタンも生成します。これは硫化水素と同様に強い臭いを持ち、口臭の主要な原因物質の一つです。この物質は、腐ったタマネギのような臭いと言われます。
3. その他の臭い
歯周病による口臭の改善には、正しい方法で毎日の歯磨きを行い、定期的に歯科健診を受けることが不可欠です。歯科衛生士による歯のクリーニングは、セルフケアでは落とせない歯と歯の間や歯周ポケット内の歯垢、歯石を除去します。
これらのケアによって歯周病の進行を防ぎ、口臭を改善することが可能です。
歯周病によって口臭が起こる状態とは?
歯周病は、歯を支える歯茎や骨などの歯周組織に影響を与える感染症です。原因は、歯についた歯垢(プラーク)と歯石の蓄積によるもので、これらには多くの細菌が含まれています。歯に汚れがついたままになると、汚れは歯垢や歯石に変わり、どんどん細菌が増殖していきます。
歯周病が進行すると、歯肉の炎症(歯肉炎)、歯肉の後退、そして最終的には歯を支える骨の破壊が起こります。歯周病が口臭の原因となる主な要因は以下の通りです。
1. 細菌の増殖
歯周病により、口内には細菌が異常に増殖します。これらの細菌は、食べ物の残骸や死んだ細胞を分解する際に、悪臭を放つ硫黄化合物を生成します。
2. 歯周ポケット
歯周病が進行すると歯と歯肉の間に隙間が出来、これは「歯周ポケット」と呼ばれます。歯周ポケットには食べカスや細菌が溜まりやすく、それが口臭の原因となります。
3. 歯茎の出血と炎症
炎症を起こした歯茎は出血しやすくなり、血液中の鉄分が歯周病の原因となる細菌の増殖を促進させることがあります。また、炎症そのものも不快な臭いの原因となり得ます。
4. 歯石の形成
歯垢が硬化して歯石になると、さらに多くの細菌が付着しやすくなります。歯石は歯ブラシで落とすことが出来ず、専門的な処置でしか除去できないため、長期間放置されると口臭の悪化につながります。
口臭を予防または改善するには、毎日の歯磨きなどのセルフケアが重要です。正しいブラッシングを行い、歯と歯の間など歯ブラシの毛先が届かない部分にはデンタルフロスや歯間ブラシを使用します。また、歯科医院での定期的な歯科検診とクリーニングによって確実に歯垢を除去することも大切です。歯周病が進行している場合には、歯科医師による専門的な治療が必要になります。
歯周病で口臭が起こっている状態を放っておくとどうなる?
歯周病による口臭を放置すると、さまざまな健康上のリスクが高まり、口内だけでなく全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。具体的なリスクは以下のようなものです。
1. 歯周病の進行
歯周病が適切な治療を受けずに放置されると、歯を支える骨が徐々に失われ、最終的には歯が抜けてしまう可能性があります。歯茎からの出血、歯肉の退縮、そして歯の動揺や脱落は、歯周病が進行した時の典型的な症状です。
2. 口内が慢性的に感染状態になっている
歯周病は口内の細菌が原因で起こる感染症です。この感染が慢性化すると、口内だけでなく他の部位にも影響を及ぼすことがあります。例えば、細菌が歯茎の毛細血管に入り、血流に乗って全身を巡り、他の疾患を引き起こす可能性があります。
3. 全身の健康への影響
歯周病は心臓病、糖尿病、呼吸器系の疾患、さらには妊娠中の女性における早産や低体重児出産のリスクと関連があることが研究で示されています。口内の慢性的な感染が全身に炎症を引き起こし、これらの疾患の原因となる可能性があります。
4. 審美的な問題を引き起こす
歯の欠損や歯肉の後退は見た目にも影響を与え、口を開けて笑うことをためらうことに繋がります。口元の問題により、自信を失ったり、社交的な場面でのコミュニケーションを避けたりすることもあります。
5. 治療の困難さとコスト
歯周病が進行すると治療がより複雑で高額になる傾向があります。初期の段階であれば簡単なクリーニングの処置や毎日のデンタルケアで改善が見込めますが、進行すると外科的な処置が必要になったり、人工的な歯を必要としたりすることもあります。
これらのリスクを回避し、健康を維持するためにも、歯周病による口臭が気になる場合は早めに歯科医院での診断と治療を受けることが重要です。定期的な検診と適切な口腔ケアを続けることで、歯周病の進行を抑え、口臭を含む様々な問題を予防することが可能です。
歯周病とは?
歯周病は、歯を支える歯茎や骨などの歯周組織が細菌の出す毒素によって炎症を起こし、徐々に破壊されていく病気です。初期段階の歯肉炎では、歯肉が赤く腫れることがありますが、適切なケアを行えば改善が見込めます。
しかし、そのまま放置すると歯周病へと進行し、歯茎や歯槽骨が少しずつ失われていき、歯がグラグラと動くようになって、最悪の場合、歯を失うこともあります。歯周病は口臭の原因とも密接に関連しており、特に深刻な口臭はしばしば歯周病の進行によるものである場合があります。
歯周病の進行
❶歯肉炎(歯周ポケット1~3mm)
歯肉が炎症になり、赤く腫れている。歯磨きの際に出血しやすい
❷歯周炎(歯周ポケット4mm未満)
歯周ポケットに歯石やプラークが溜まる。歯肉の炎症が広がり、歯根膜を破壊したり、歯槽骨が溶け始める
❸中等度歯周炎(歯周ポケット4~6mm未満)
歯磨きの度に血が出て、膿が出ることになる。歯槽骨がどんどん溶けているため、歯がグラグラし始める
❹重度歯周炎(歯周ポケット6mm以上)
一般的に歯槽膿漏と呼ばれることの多い状態で、歯槽骨が多く溶けているため、歯の根元が歯肉から露出し、歯が抜け落ちてしまう
参照先:NHS
口臭の様々な原因
口臭には様々な原因があり、主に4つに分類することができます。
- 病的口臭
- 心因性口臭
- 外因性口臭
- 生理的口臭
病的口臭
口腔内の病気(むし歯や歯周病)が理由で起きる口臭と、全身疾患(糖尿病や肝臓疾患)が理由で起きる口臭と二つのケースがあります。
心因性口臭
検査を行って口臭がないと診断されたにも関わらず、周囲の人から嫌悪感をもたれる程度の口臭があると思い込む病気です。自臭症と専門的に呼びますが、繊細で几帳面な方、過去に一度指摘された経験がある方などが陥りやすいです。
外因性口臭
にんにく・ネギ・ニラなど、においの強い食べ物をお食事の際に食べたり、飲酒やタバコを吸うことにより生じる口臭です。いずれの場合も時間の経過により、口臭は薄れていきます。
生理的口臭
起床した時や、空腹の際に起きる口臭です。お口の中が唾液の分泌量が少なく乾燥していると、細菌が繁殖し口臭を発生させます。毎日の歯磨き・お口の中が乾燥しないように唾液腺マッサージを行うと、口臭は弱くなり効果的です。
まとめ
歯周病で口臭や膿、腫れなど様々な症状が口腔内に起こってしまいます。お口のリスクを減少させるため、虫歯や歯周病の予防のために定期健診へ行きましょう。健康な歯や歯肉を保つクリーニングやメインテナンスを歯医者さんで行うことで、歯周病の進行を防ぐことができ、その他のトラブルの改善も可能です。気になる方は定期通院の際、スタッフやドクターへお気軽にご相談ください。
歯周病による口臭が起こる状態に関する2つの研究を紹介します。
1. De Geest et al. (2016) の研究では、口臭(ハリトーシス)は主に、硫黄含有および非硫黄含有アミノ酸の微生物分解によって発生する揮発性で不快なガスに起因することが示されています。口臭の主な原因は、舌のコーティングや歯周病に関連する嫌気性グラム陰性菌によるもので、これが口臭と歯周病の関連を説明しています。【De Geest et al., 2016】
2. Porter & Scully (2006) の研究では、口臭は通常、口腔または時には鼻咽頭の病気によって引き起こされると説明されています。口臭の最も一般的な原因は、歯や舌に蓄積された食物残渣や歯垢であり、これによる歯肉炎や歯周炎が起こると口臭が生じることが示されています。特に急性壊死性潰瘍性歯肉炎(ヴィンセント病)は顕著な口臭を引き起こすことが知られています。【Porter & Scully, 2006】
これらの研究によれば、歯周病による口臭は、主に歯垢や舌のコーティングに起因し、嫌気性菌の代謝活動によって生成される揮発性硫黄化合物が原因であることが示唆されています。